以下の条件に当てはまる方はぜひ読んで頂きたい記事です。
・MBAを私費で取りに行く
・「特定支出控除」と聞いてもピンとこない
もしかしたらMBA留学で100万円くらい損してるかもしれませんよ!
この記事の目次
「特定支出控除」とは?
給与からの天引き、把握してますか?
会社員の方の多くが給与から天引きされている金額を正確に把握していないのではないでしょうか。僕もそうでした。
会社に勤めていて源泉徴収で控除されているのは、主に以下の3つです。
・所得税
・住民税
・社会保険料
「特定支出控除」はこのうちMBA留学をする事で、所得税と住民税を軽減できる可能性のあるものです。
少し順を追って説明しますね。面談な方は先に具体的な計算例まで進んでもらってもOKです。
給与から天引きされる金額の決め方
先に挙げた、所得税、住民税、社会保険料の天引き3兄弟ですが、それぞれ金額の決め方が微妙に違います。
所得税
まず、所得税はその年の「課税所得」に応じて決まった額をその年に払います。
2018年の所得税は2018年の給料に応じて決めて、その年に払い切ってしまうわけです。1月から毎月の給料をみて見込みで払っておいて、年末調整(会社で毎年なんか紙を書いて会社に提出してますよね?)で1年の帳尻合わせをしてます。所得税はこちらにある通り「課税所得」が多いほど税率が上がる累進課税です。
住民税
次に、住民税は1年前の「課税所得」を基に毎年6月に決めて、6月〜5月のサイクルで支払います。
2018年の「課税所得」で2019年6月〜2020年5月に払う住民税が決まります。厳密には地域によりとても微妙な差はありますが、税率は原則として全国一律10です。(参考)
社会保険料
最後に、社会保険料は毎年4〜6月の「給料」(≠「課税所得」)を基に決めて、9〜8月のサイクルで支払います。2018年4〜6月の給料によって2018年9月〜2019年8月の社会保険料が決まります。
給料からの様々な「控除」
ここで最初の2つ、所得税・住民税のところに出てきた「課税所得」というのは、給与明細に書いてある給与の額面から
・「給与所得控除」
・「所得控除」
を差し引いて求めます。
これらはそれぞれ給料を稼ぐための必要経費とみなされる金額です。
「給与所得控除」は誰にでも適用される基本的な金額です。こんな風に給料の金額によって決まります。
「所得控除」は14種類あるとされており(参考)これは家族の状態や何にお金を使ったかによって決まります。
普通はここまでなのですが「特定支出控除」はここで第三の控除額として給料から差し引く事のできる必要経費を指します。
少し話が複雑になってきましたが、簡単にまとめると「特定支出控除」を活用すれば所得税や住民税の金額を下げられる可能性があるんです。
「特定支出控除」の定義
正確な定義は国税庁のウェブサイトに詳しいですが、給料を得るために下記のような経費を自己負担していれば、特定支出とみなして「特定支出控除」が受けられる可能性があります。
・通勤費
・転居費
・研修費
・資格取得費
・帰宅旅費
・勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等)
これらが給料を得るための必要経費だった事の証として、所定の用紙に会社からの証明を得て、税務申告時に提出する必要があります。
例えば、仕事の都合で遠方より出勤しなければならないが、その費用を会社が負担してくれない場合、会社が認めればその自己負担分は仕事に必要な個人の経費という事で「通勤費」の区分で「特定支出控除」が申請できる、といった塩梅です。
MBAは上記のうち「研修費」あるいは「資格取得費」に当たる可能性があります。
すなわち、会社からその必要性のお墨付きを得れば、MBA留学の費用を必要経費として税務申告する事で所得税や住民税の減免が受けられるかも、という事です。
税理士ドットコムのこの記事ではプロの税理士さんも認めています。
具体的な例と必要な手続き
いくらくらい節税できる?
先ほどの税理士ドットコムの記事の例をもう少し掘り下げてみましょう。
年収960万円を2018年に得ていて2019年1月から2年間MBAに通い、2018年の特定支出として認められるMBAの費用が200万円とします。また給与所得控除と基礎控除(所得控除の一種)以外の所得控除はなく、収入は給料のみとします。
特定支出が無かった場合
こちらを参考に計算していきます。
給与所得控除 = 960万円 x 10% + 120万円 = 216万円
基礎控除 = 38万円
控除の合計額 = 216万円 + 38万円 = 254万円
この254万円が960万円を稼ぐための必要経費という事になりました。したがって課税所得は
課税所得 = 960万円 – 254万円 = 706万円
となるので、この金額を基に所得税を計算します。
所得税 = 195万円 x 5%
+ (330万円 – 195万円) x 10%
+ (695万円 – 330万円) x 20%
+ (706万円 – 695万円) x 23%
= 97,500円 + 135,000円 + 730,000円 + 25,300円
= 987,800円
あるいは
所得税 = 706万円 x 23% – 636,000円 = 987,800円
という計算でも大丈夫です。
これに住民税が10%なので706,000円になります。
まとめると
・所得税 = 987,800円
・住民税 = 706,000円
・合計 = 1,693,800円
特定支出があった場合
特定支出を加味する際の留意点は、費用全額を控除に加えられる訳ではないという事です。ここにあるように「給与所得控除の1/2を超えた金額」のみ控除できます。
MBA費用 = 200万円
給与所得控除 = 216万円(前述の通り)
特定支出控除 = 200万円 – 216万円 x 1/2 = 92万円
この92万円の特定支出控除を加味すると、控除の合計額が254万円→346万円と増える事になります。
すると課税所得は
課税所得 = 960万円 – 346万円 = 614万円
この時の所得税は
所得税 = 614万円 x 20% – 427,500円
= 1,228,000円 – 427,500円
= 800,500円
住民税は課税所得の10%なので614,000円となります。
まとめると
・所得税:800,500円
・住民税:614,000円
・合計:1,414,500円
ざっくり30万円くらい節約・・!
特定支出控除を加味する事で税金の合計が169万円→141万円とほぼ30万円下がりました。
私費留学生にとって、これは小さくない金額のはず!
必要な手続きは?
段取りはこんな感じです。
・所定の様式に沿って会社の証明を得る
・明細書に支出をまとめる
・確定申告をする
確定申告・税務調査の時に求められても対応できるよう、領収証をきちんと保存しておきましょう。
確定申告の書類の書き方についてはこちらが詳しいです。
また、個別具体的な相談がしたい方は税理士ドットコムが良いかもしれません。「みんなの税務相談」では匿名で無料の質疑応答ができますし、より突っ込んだ質問や確定申告のサポートが欲しい時には税理士さんを探す事もできます。
無料の質疑応答でも下記のようにかなり参考になる情報が得られます。ログインしないと回答が見づらいのでひとまず無料登録しておきましょう。
また、正攻法としては自分の住む地域の税務署に電話で聞いてみるというのもありです。確定申告を実際に受け付けるのはそこですからね。
ここから一般的な相談なら電話相談センター、個別具体的な事は税務署へ電話できます。マルサみたいに怖いなんて事はなくて親切に疑問に答えてくれますよ。
留意点
いくつか「特定支出控除」のメリットを受ける上での留意点を挙げておきます。
会社の証明を得るのが大変?
所定の様式に沿って会社の証明が必要なのですが、これは会社がMBAへの留学が「職務の遂行に直接必要である」事の証明になります。
要はMBAへの留学が本業に活きる事の証明です。
税務申告の手続きやその正しさは本人が責任を負いますので、会社としてはこの証明をする事で何らかの責任を負う事は無いのですが、会社によっては例の無い事だと難色を示されるかもしれません。
というのも、全国で1,500〜1,600名程度しか申告していないので、その存在を知る人自体あまり多いとは言えないんですよね。(参考)せっかくの良い制度なのですがマイナーと言わざるを得ません。
また、私費留学に際して今勤めている会社を退職される方もいるかと思いますので、税メリットを受けるためのサポートを今の会社にお願いし辛いかもしれません。
とにかく会社の証明を得るところが最初のハードルになりますので、下記のような事を通して会社を説得する事が必要になります。
・制度についてしっかり調べて会社の負担が大きくは無い事を理解してもらう
・MBA留学がどのように業務に活きるのかを説明する
ちなみに、僕がどのようにして会社から証明を取ったのかもツイッターでつぶやいてます。
MBAの特定支出控除は多くの人が前例もないままに申請を試みると思うので、補足です。
僕も過去に例がないと言われ、申請要件である書類に社長名での署名を貰うにあたり
事業部(直属のボス)「何か良いんじゃない?」
管理部(人事・法務)「よく分からんけどグレーでは・・?」
という反応でした。 https://t.co/6j8C9mYtEa— トム / INSEAD→ブロックチェーン (@tominsead) January 20, 2020
会社としては何の費用負担も無く留学補助ができるようなものなので、もっとこの制度の存在が広まって活用例が増えれば良いと思うんですけどね。
所得税・住民税の還付タイミングは違う
先述の通り、所得税と住民税では税金の決め方が異なるため、「特定支出控除」の効果はこのようになります。
・所得税→その年のうちに現れる
・住民税→その次の年に現れる
先ほどの例で言うと2018年にMBA費用を「特定支出控除」と申請した事の効果は
・2018年1月〜12月に支払う所得税の軽減
・2019年6月〜2020年5月に支払う住民税の軽減
という形で現れます。
住民票を抜いて非居住者になる場合は住民税がそもそもかかりませんので、効果が所得税のみに限定される可能性もあります。海外に留学される場合は要注意です。
MBA費用の内容・分類は自分で決める
特定支出控除には6種類の分類がありましたが、MBAが該当すると思われるのは「研修費」「資格取得費」のいずれかと思います。
ただ、このどちらに該当するかは、税務署に問い合わせてみたところ、会社及び申告者本人の判断に委ねられる、との事でした。
税務署としてはMBAが業務にどのように関係するか否か、一番詳しいのは会社とあなたでしょ、というスタンスで、これは至極ごもっともです。
また、学費の他にも受験料や受験の準備に費やした費用、留学中に用いる教材なども「特定支出控除」に含められる可能性があります。この判断は、会社としても分からないので、申告者本人が責任を持って判断する必要があります。
どこまで費用として申請するべきか、答えが出ないようであれば税理士ドットコムで相談できるプロを探してみても良いかもしれません。数十万の節約のためにいくらかの相談料を支払うのは合理的だと思います。
ただ、まずは国税庁のウェブサイトなどで自分で情報を咀嚼してみると良いと思います。公式の資料とその概要があります。
後日税務調査があるかも?
日本では申告納税制度といって、申告者が言う通りの税金をまず納めて、その申告が正しいかどうかは、後からチェックされます。
税務調査の期限は申告から7年間という事になってますので、申告の際は書類のコピーをしっかりとっておき、税金の還付を受けた後も7年間は無くさず保管しておきましょう。
いい加減な申告をして修正を後で指摘されると追徴課税が課される場合もありえますので、目先の還付だけを考えず、仮に税務調査が入ったとしても自信を持って説明できる申告内容にしましょう。
こんな悪い例もありますのでご注意を。
まとめ
「特定支出控除」はサラリーマンに唯一認められる経費と言えます。これにMBA取得費用が該当するのであれば使わない手はありません。
特に私費で留学する場合には、これによる還付で少しでも負担を減らす事ができます。
下記の段取りで申請を行って、不安な事や疑問点があれば、税務署への問い合わせや税理士ドットコムなどを活用してみてはいかがでしょうか?
・所定の様式に沿って会社の証明を得る
・明細書に支出をまとめる
・確定申告をする
まだまだ利用者の少ない制度のようですが、せっかくの仕組みなので利用される方が増えると良いのではと思っています!
僕の実際の税務申告の書類をnoteで公開していますので、具体例が必要なほどに検討が煮詰まっている方は確認してみて下さい。